「敬礼!」
係りの人の号令の後、一瞬の静寂が流れた。
卒業を目前にした消防学校の若い消防士達へ向けての講演だった。
時々その場所特有の挨拶の方法や雰囲気がある。
警察学校や消防学校は敬礼で始まり敬礼で終わる。
僧侶の皆様の勉強会にお招き頂いた時は読経の中を講師席まで案内して頂いた。
お香の香りの中の厳粛な空気は身が引き締まるような感じだった。
教会での講演は讃美歌が流れパイプオルガンの音色が聞こえたりもした。
振り返ればいろいろな場所に出かけたなと思う。
いろいろな場所でいろいろな立場の皆様に話を聞いてもらったが、
結局僕は人間に向かって話をさせてもらっているのだろう。
この社会で一緒に生きていく人間ということなのだ。
消防学校では講演の後、視覚障害者のサポート体験の実習もしてもらった。
二人一組で廊下を歩いたり、椅子への誘導をしたりした。
僕も何名かの人に体験をしてもらったが、見な鍛えられた肉体なのに驚いた。
最後に質問が出た。
「万が一、火事の現場で視覚障害者の人を救助する際、抱えても大丈夫ですか?」
そこにはこれから現場に配属されて消防士として働き始める人達の心があった。
正義感、勇気、輝いていた。
もう10年以上前に始めて消防学校にお招き頂いた時に、校内を案内して頂いたことが
ある。
一角に殉職者の霊をおまつりしている場所があった。
危険と隣り合わせて仕事をしておられるのを実感した。
社会はいろいろな人達のお陰で成り立っている。
学校を後にしながら、あらためていろいろな人達に支えられての日常を意識した。
そして、心から感謝した。
(2021年2月28日)