満月だとラジオから聞こえてきた。
僕はわざわざダウンコートに袖を通してからベランダに出た。
それからそっと夜空を見上げた。
見えないということは焦点を合わす必要はない。
探さなくてもいい。
ただそっと見上げて記憶に語りかければいい。
青白い光のお月さまが静かに迎えてくれた。
子供の頃、青年の頃、壮年の頃、そして今、
きっと変わらない光が零れているのだろう。
天文学とか物理学とか文系の僕は苦手だった。
苦手だけれどその雰囲気は好きだった。
時の流れの壮大さ、自分自身のちっぽけな命、
それを想うことが好きだったのかもしれない。
今年の満月は特に綺麗に思えた。
しばらく佇んで呼吸をした。
お月さまが帰られたらまた明日が始まる。
(2021年1月30日)