話をする僕を彼女はじっと見ていたのだろう。
そして気づいてくれたのだろう。
「どうして白杖に鈴をつけているのですか?」
僕は気づいてくれたことに感謝を伝えてからその理由を告げた。
「通行人とぶつかりたくないんだ。
音で気づいてもらえるように鈴をつけているんだよ。」
そして、スマホを見ながら歩いている人がとても怖い存在であることも付け加えた。
質問してくれた彼女は中学一年生だ。
人権講演会で僕の話を聞いてくれたのだ。
興味を持つということ、思いを寄せるということ、きっと理解につながっていく。
未来につながっていく。
こういう活動を始めたのは失明して数年した頃からだろうか。
もう20年近く活動してきたことになる。
先日入った市内の食堂で他のお客さんに話しかけられた。
「突然声をかけてすみません。松永さんですね。
小学生の時に話を聞きました。
職場がこの近くなんです。」
僕は憶えていてくれてありがとうと答えた。
そしてうれしかった。
今年伺った小学校では新任の先生が声をかけてくださった。
やはり、小学校の時に僕の話を聞いたとのことだった。
未来に向かって蒔き続けた種が少しずつ発芽してきているのだろう。
今日の中学校ではまた別の質問を受けた。
「夢は何ですか?」
ひょっとしたら、もう夢を語るような年齢ではないのかもしれない。
でも、僕は答えた。
「せめて60歳代は未来に向かって種を蒔き続けていきたいと思っている。
見える人も見えない人も見えにくい人も、皆が笑顔になれるようにね。」
会場を後にする時、生徒達は大きな拍手で送ってくれた。
担当の先生が小声でささやかれた。
「松永さん、まだまだ全然大丈夫ですよ。頑張ってくださいね。」
僕は素直に頑張ろうと思った。
(2020年12月13日)