帰りのタクシーの中でポケットを探って青ざめた。
瞬時に落としてしまったと思った。
どこで落としたのか分からない。
ホテル、立ち寄り先、九州新幹線、JR西日本、地元の駅、
考えられるところにはすべて問い合わせた。
電子マネーカードやタクシーカードも入っていた。
何よりパスケースそのものがお気に入りのものだった。
7年くらい前にフェラガモのサングラスに出会った。
落ち着いた感じのデザイン、色合いが好きになった。
それから札入れ、名刺ケース、パスケース、ベルト、携帯ストラップまでお揃いにし
ていた。
見える頃からさりげないおしゃれが好きだった。
中身は伴わない自分を意識しながら、
似合うようになりたいなと思う自分が好きだった。
一週間が過ぎた。
結局出てこなかった。
友人達は見つけた人が届けてくれると言ってくれた。
僕は最初から出てこないだろうと思った。
一週間が過ぎて気持ちも落ち着いた。
あきらめもついたということだろう。
そしてつくづくと自覚した。
まだまだ似合うような人にはなれていない。
友人達は社会を信用するところからスタートしていた。
結果ではなくて、そのスタートのおおらかさが大切なのだ。
ちょっと恥ずかしくもなった。
また勉強して頑張ろうと思いながらコーヒーを啜った。
背筋が伸びる感じがした。
(2020年10月23日)