支えてもらいながら

タクシーを降りて歩き出したら、運転手さんが追いかけてきてくださった。
反対の方向へ向かって歩き始めたらしかった。
僕は運転手さんにしっかりとお礼を伝えて歩き始めた。
「行ってらっしゃい。」
背中から運転手さんの声が聞こえた。
僕は振り返って会釈をした。
それから白杖で点字ブロックを確認しながら改札口へ向かった。
「新大阪駅まで単独で行きます。サポートをお願いします。」
僕は改札口の駅員さんに告げた。
「分かりました。手配をしますのでベンチで待っていてください。案内します。」
駅員さんは僕を構内のベンチまで案内してくださった。
5分くらい過ぎてから声がした。
「手配が完了しました。次の電車に乗車してもらいます。新大阪駅にも連絡済ですか
らご安心ください。」
僕は駅員さんの肘を持たせてもらってホームに移動した。
「この辺で待ちましょう。あと3分ほどあります。」
僕達は無言で電車の到着を待っていた。
「今日は東京ではないのですね。」
駅員さんは唐突に話された。
僕が驚いた感じを察知して説明をされた。
「私はこの駅に配属されて2年半なのですが、お客様のお手伝いをもう10回以上や
っているんですよ。東京へ行かれることが多いですよね。」
「はい、東京での会議が多いものですから。今日は仕事が大阪なんですよ。
そうですか、もう10回以上ですか、本当にありがとうございます。」
そんな話をしているうちに電車が到着した。
駅員さんはマイクで放送をされた。
「業務連絡、お客様乗車です。」
「了解。」
車掌さんの確認のアナウンスが流れた。
「では活きましょう。空いている席がありますから案内します。」
駅員さんは僕を空いている席に座らせると、
「気をつけて行ってらっしゃい。」
と声をかけて降りていかれた。
「ありがとうございました。助かりました。」
僕は後ろ姿に大きな声で感謝を伝えた。
「お客様、乗車完了。」
駅員さんのマイクの声が流れた。
僕は振り返って窓越しに頭を下げた。
そして自然に笑顔がこぼれた。
いろいろな人に支えられて生きている。
その実感が僕を幸せ色に包んだ。
しみじみと、ほのぼのと、そしてしっかりとうれしくなった。
新大阪駅のホームには連絡を受けた駅員さんが待っていてくださった。
「業務連絡、お客様降車です。」
駅員さんのマイクの声が聞こえてきた。
今日と言う一日をまた頑張ろうと思った。
(2020年9月26日)