久しぶりに失敗した。
ふっと気が抜けてしまったのだろう。
白杖で電車とホームの隙間をしっかりと確認、それから電車の床も確認、
流れるような動きで乗車した。
そこからはいつも入り口の手すりを持って立っている。
ところが今回は、一瞬手すりを持つ姿勢になったのだが、
何故かそこから一番近い座席を白杖で探って座ろうとしてしまった。
本能的に座りたいという欲求があったのかもしれない。
授業の後でちょっと疲れていたのかな。
そして、なんとなくその座席は空いているような気がしたのだ。
いやどこかで、空いていると信じてしまっての動きだった。
根拠もないのにそう思ってしまっていたのだ。
「すみません。」と声を出しながら、白杖で座席の端を確認しようとした。
うまく確認できなかった。
そこで引き下がればよかったのだが動きは止まらなかった。
今度はシートを触ろうと手を出した。
「います、います。」
若い女性の声が飛び跳ねた。
そして慌ててどこかへ行ってしまった。
いや、まさに逃げたという感じだった。
「ごめんなさい。」
僕は方向も確認できないまま大きな声で謝った。
見えなくなった最初の頃は失敗することを恐れた。
そんな自分を見られることを恥ずかしく感じた。
失敗を重ねながら少しずつ学んでいった。
いつの頃からか、失敗する自分を笑い飛ばせるようになっていった。
見えないとはそういうことなのだと、
平常心で自分自身に言い聞かせられるようになっていった。
図々しくなっていった訳ではないと思う。
失敗した時はちゃんと謝ることが大切だと思うようになった。
今回の失敗もそんなに落ち込むほどのものではない。
やってしまったという感じだ。
ただ、その人にちゃんと謝罪が通じたかが不安だ。
声が聞こえてくれていたらいいのだが。
僕が嫌がられるのはかまわないが、
彼女が他の視覚障害者にも嫌なイメージを持ってしまったらそれは悲しい。
でもどうすることもできない。
そんなことにならないようにと願うだけだ。
まだまだ勉強が足りないな。
反省します。
(2020年6月26日)