ラジオから流れてきた風景には山も畑もあった。
田んぼのあぜ道もあった。
青空も白い雲もあった。
小川のせせらぎも添えられていた。
訪れたこともないはずなのに記憶が少しずつ蘇っていくような気がした。
セピア色の写真が色彩を取り戻していくような感じだった。
いつどこで見た風景なのかと思いめぐらしたが答えは出なかった。
のどかな原風景が無言で存在していた。
光の柔らかさが春を告げていた。
何気ない風景なのにそこには幸福が感じられた。
風景の中の幸福を僕自身が求めていることにふと気づいた。
広がっていく不安の裏返しなのかもしれない。
今度晴れた日に歩きたいと思った。
光を感じながら歩きたいと思った。
そして春の光の下で両手を広げて深呼吸をしたいと思った。
(2020年3月29日)