右手の人差し指の先の裏側で桜の花を触った。
人差し指の先の裏側は1センチ四方よりも狭いかもしれない。
桜の花弁はそれよりも小さいはずだ。
それなのに触った瞬間に包まれるのはなぜなのだろう。
ピンク色のやさしさに身体全体が包まれる。
時が止る。
お互いの命を確かめ合うように静かに呼吸する。
特別に桜だけが好きなわけではない。
特別に春だけが好きなわけではない。
生きていることを実感する瞬間が愛おしいのだろう。
見えなくなって24年の歳月が流れてしまった。
見た記憶が少しずつ確実に遠ざかる。
その流れの中で生きてきた。
生きてこれた。
一度指を離してからもう一度桜の花弁を触った。
なんとなくわざとそうした。
やさしいピンク色が辺り一面に鮮やかに蘇った。
(2020年3月25日)