僕の散歩コースは人がやっとすれ違うことができるくらいの道幅だ。
白杖でいろいろと確認しながら歩く。
路面の感覚がザラザラだったりツルツルだったり所々変化するので情報となる。
白杖の路面に当たる感覚で道の傾斜が伝わってくる。
自分が道の右側を歩いているのか左側なのかも白杖で確認する。
左右に動かした時に右側の草むらに当たれば右側、左の手すりに当たれば左側という
ことになる。
右に行ったり左に行ったりして歩いている。
見えないとはそういうことだ。
前方から人が歩いてくることもあれば後ろから追い抜かされることもある。
ぶつかってはいけないのでしっかりと耳を澄ませて歩いている。
道路を行き交う車のエンジン音もひとつのナビゲーションだ。
だいたいの方向などを確認している。
たまに聞こえる鳥の鳴き声などは緊張感をほぐしてくれる。
橋を渡る時の小川のせせらぎの音もそうだ。
季節によっては花の香りに気づいて足が止まる。
幸せの瞬間だ。
一番怖いのはやはり自転車だ。
すれ違う瞬間までほとんど音がしない。
昔はベルを鳴らすのが一般的だったが今はそうではない。
歩行者優先だから鳴らしてはいけないという考え方らしい。
僕は鳴らしてくださった方が助かる。
「自転車、通りまーす。」
たまに後ろから自転車に乗っている方の声が聞こえることがある。
僕は瞬間立ち止る。
自転車が横を通り抜けていくのを確認してからまた歩き出す。
一声で安全度が確実にあがる。
うれしくなる。
「ありがとうございます。」
僕は自転車に大きな声でお礼を言う。
たまに返事がある時もある。
「頑張ってくださーい。」
「行ってらっしゃーい。」
「応援していまーす。」
恐怖の自転車が幸せを運ぶ乗り物に変化する。
やっぱり人間の声は素敵だと思う。
(2020年3月11日)