小学校の福祉授業を終えて校門からタクシーに乗車した。
最寄りの地下鉄の駅に向かった。
降車後の階段の入り口までのサポートを運転手さんにお願いした。
快くという感じではなかったけれど引き受けてくださった。
僕はしっかりとお礼を伝えた。
慣れない場所を単独で動くには誰かの助けを受けなければ無理だ。
援助を頼む力が外出の力となる。
その駅は年に数回しか利用しないから構造も理解できていなかった。
とりあえず階段を下りれば点字ブロックがあるはずだと考えて動き始めた。
最初の踊り場で方向が分からなくなった。
白杖で壁を確認しながら階段を探した。
「どこまで行かれますか?」
通りかかった女性が声をかけてくださった。
僕は改札口までのサポートをお願いした。
彼女の肘を持たせてもらって歩き出した。
地下鉄の改札口は思ったよりも深い場所にあった。
いくつもの踊り場を過ぎてやっと改札口に着いた。
彼女はその流れで電車までのサポートも申し出てくださった。
途中までは僕達は同じ経路だった。
僕達は僕の希望した後部車両までホームを移動して電車に乗車した。
シートに腰を降ろしたらすぐに電車は発車した。
僕はありがとうカードを渡しながら感謝を伝えた。
一人で移動していたらこの電車には間に合わなかったこと、
座れなかったことを伝えた。
白杖の人が電車の入り口の手すりを持って立っているのは、
座席が見つけられないからということには気づかなかったとおっしゃった。
僕も見える頃は分からなかったと返した。
あっという間に僕の降りる駅に着いた。
僕は彼女に再度しっかりとお礼を伝えて電車を降りた。
歩き始めて、今日の小学校の女の子を思い出した。
隣で一緒に給食を食べていたその子は、そっと僕に尋ねた。
「助けてくれるやさしい人ってたくさんいるのですか?」
「見える頃は予想していなかったけど、本当にたくさんいるよ。
やさしい人にたくさん出会えるのは僕の幸せのひとつかもしれないね。」
僕は答えた。
「ありがとう。」
その子は小さな声で言った。
少女はいつか今日の女性のようになるのだろうなとなんとなく思った。
未来への種蒔きができたような気がした。
(2019年10月30日)