大きな交差点で道も直角に交わっているわけではなかった。
音響信号も付いているのだが音源だけで正確な方向は確認できなかった。
僕は週に一度くらいの頻度でそこの横断歩道を渡らなければならなかった。
渡る前にいつも深呼吸して気合を入れていた。
横断歩道の手前にある点字ブロックを足の裏で確認して方向を決める。
それから白杖を身体の中心に持ってきて同じ振り幅で同じリズムで歩く。
耳は音響信号の音と左折右折で進入してくる謝恩を確認する。
歩行訓練の先生に教えてもらった通りにやるのだがなかなか難しかった。
見えないでまっすぐというのはやはり勘の世界なのだ。
ちゃんと渡れるのは7割くらいだった。
どちらかに曲がってしまうのだ。
雨の日に傘をさしたりしていたら成功率は3割もなかった。
最近、その横断歩道が平気になった。
エスコートゾーンが敷設されたのだ。
横断歩道のスタート地点から終了地点まで足の裏で感じられる凹凸が付いたのだ。
その上を歩けばまっすぐに向こう側に到着できる。
これを使うのは視覚障害者でも全盲の人だけなので、点字ブロックのような色は付い
ていない。
触覚だけで分かるようになっている。
今朝もそのエスコートゾーンを利用して横断歩道を渡った。
何の問題もなく渡れた。
渡り終えて喜びが身体を突き抜けた。
大袈裟ではなくそんな感覚になった。
裏返せば、いつも怯えていたということだろう。
エスコートゾーンを発明してくださった人、
ここに敷設すると認めてくださった人、
そして地域の人、
本当にありがとうございます。
皆様に心から感謝です。
何十回も頭を下げて回りたいほど感謝です。
(2019年10月28日)