見えない僕は車の運転はできない。
バイクにも自転車にも乗れない。
ただひたすら歩くだけだ。
しかも白杖で確認しながらなのでスピードは出せない。
車に追い越され、バイクや自転車に追い越され、人にも追い越される。
自分では頑張っているんだけど、見た目にはノロノロだろう。
かたつむりみたいなものだ。
今朝もそう思いながら歩いていた。
突然、香りの空気の塊が僕を包んだ。
キンモクセイの香りだ。
少し湿度が高く微風の日だった。
そこからキンモクセイの香りの中を歩いた。
気づく時はだいたいいつも一瞬なのだが今回はしばらく続いた。
僕の歩くスピードと風の速さが重なったのかもしれない。
幸せがどんどん膨らんだ。
横の道を車が行き交った。
車の中の人達は香りに気づくことはないだろう。
カタツムリにもいいことがあるんだ。
宝物を独り占めしたような気になった。
余計にうれしくなった。
やっぱり根っからの貧乏人なのだろうな。
ごめんなさい。
(2019年9月30日)