新しい公共施設のユニバーサルデザインの会議で僕は彼と出会った。
彼は聴覚障碍者の関係の代表として参加しておられた。
彼自身は健常者で施設職員という立場だった。
ただ熱い思いは当事者を超えるような雰囲気があった。
決して激しい口調ではなかったが出席している他の委員達に淡々と話されていた。
彼の提案で新しい施設に磁気ループの設置が決まった。
最後の会議の後、もう会えないかもしれないと彼は僕におっしゃった。
どういう意味か分からないでいる僕に、
彼は抗がん剤の影響で帽子をかぶって会議に参加していると教えてくださった。
笑いながらおっしゃったが少し淋しそうだった。
それから、彼は僕の手を強く握ってこれからも頑張るようにと励ましてくださった。
「また、きっと、会いましょうね。」
僕も強く握り返した。
先日、その施設の職員と夕食を共にする機会があった。
めったにない機会だった。
彼が最近亡くなられたことを聞かされた。
たくさんの関係者が尊敬されておられたことも知った。
僕もそう感じていたことをお伝えした。
新しい施設では聴覚障害の方々が磁気ループの恩恵に授かるのだろう。
でも、その磁気ループのいきさつを知ることはないのかもしれない。
ただ、彼が目指したユニバーサルは実現できたのだ。
命はいつか終わる。
終わっても残る形もある。
そして未来に向かうエネルギーは引き継がれていくのだ。
そんな仕事をしていきたいと強く思った。
(2019年9月3日)