阪急烏丸駅は予想通り混んでいた。
電車を降りた僕は深呼吸をした。
深呼吸をすると気持ちが落ち着く。
集中力も高まる。
戦いに向かう前の兵士のような感覚だ。
恐怖心に包まれてのホームの移動、
僕にとったら決して大袈裟ではない。
息を吐ききって、白杖を握り直した。
点字ブロックを確認して歩き始めた。
「一緒に行きましょうか?」
男性の声がした。
僕は返事をするのと同時に彼の肘を持たせてもらった。
「これで無事に改札まで行ける。」
心の中でつぶやいた。
少し移動してから改札口へ向かうエスカレーターに乗った。
「混んでいる駅が一番怖いんですよ。」
僕は感謝を伝えながら説明した。
「鉄の塊が動いていますからね。」
彼は僕に寄り添って答えてくださった。
その面白い表現がなんとなくうれしかった。
改札口まで着いて「ありがとうカード」を渡して別れた。
夜、ホームページのお問い合わせホームからメッセージが届いていた。
「鉄の塊」を憶えていた僕はすぐに彼を思い出した。
フェイスブックでありがとうカードを紹介したいとの内容だった。
僕にしたら願ってもないことだった。
50歳代の彼はこれまでに3回程視覚障害者のサポートをしてくださったらしい。
これからはもっと出来そうだと書いてあった。
駅などでの視覚障害者への声かけの重要性を確認してくださったのだろう。
そして同じ未来を見つめてくださったのだ。
50歳代と60歳代の男同士、
偶然のわずかな時間の出会い。
人はそれで笑顔になれる。
助けられるのはうれしいことだが、助けるのもそうなのかもしれない。
だから助け合うって言うのかな。
人間って素晴らしい。
(2019年8月24日)