最寄りのバス停から8時48分のバスに乗車する日だけその子に会える。
それも平日だけだ。
最初にその子を意識したのはもう一年くらい前だろうか。
バス停に近づいた僕にその子が何か言った。
何と言ったのかも僕に言ったのかも分からなかった。
僕はそれを無視した。
しばらくしてまたそのバスに乗る日、同じ状況があった。
「おはががが」と聞こえた。
僕はひょっとしてと思って立ち止った。
僕のひょっとしては当たっていた。
知的障害のある子だった。
その子はお母さんと一緒に支援学校の送迎バスを待っているのだった。
お母さんがその子の言葉をアシストした。
「おはようございます。」
僕は笑顔になって返した。
「おはようございます。」
それから、その子は僕を見つける度に挨拶をしてくれるようになった。
いつの間にか、その時間にその子に会うのが僕の楽しみにもなった。
先日会ったら、挨拶以外の言葉があった。
またお母さんがアシストしてくださった。
プールがあると言ってくれたらしかった。
その子の喜びと興奮が伝わってくるようだった。
僕は夏の陽ざしの中のプールを思い出した。
うれしくなった。
「行ってらっしゃい。」
僕は大きな声で挨拶を返した。
(2019年7月13日)