久しぶりに立ち寄った中華料理店の店員さんは新人になっていた。
「テーブル席が空いていないのですが。」
店員さんは申し訳なさそうにつぶやかれた。
幾度も訪れている店なので僕の頭の中にだいたいの地図はあった。
「カウンターでもいいですよ。」
提案してみたが却下された。
背もたれのない回転イスは危ないと判断されたらしい。
しばらく待ってテーブル席が空いた。
店員さんは僕の希望通り肘を持たせてくださった。
でも不安だったのだろう。
反対の手では僕の身体を支えるようにしてゆっくりゆっくり歩かれた。
僕はテーブルまでくると自分でイスを探して座った。
店員さんはメニューの説明を始められた。
丁寧にひとつひとつ読んでいかれた。
お店は忙しそうな雰囲気だったので僕は恐縮した。
途中で店員さんの説明を止めて日替わり定食を頼んだ。
好き嫌いもないので何が出てきても大丈夫だ。
そして何よりリーズナブルのはずだ。
「日替わりはカラアゲか餃子か選べます。」
僕はカラアゲを頼んだ。
ついでにご飯も小さいのにとリクエストした。
店員さんは緊張しながらもひとつひとつにしっかりと返事してくださった。
テーブルの上の水の入ったコップの場所を再度僕に確認させてから離れていかれた。
カウンターの方で店員さんの声が聞こえてきた。
「定食一丁、餃子でお願いします。」
僕のカラアゲはいつの間にか餃子に変わっていた。
僕は苦笑しながら、それでも運ばれてきた餃子の日替わり定食をおいしく頂いた。
お勘定をすませて店を出る時、
「またのご来店をお待ちしています。」
心をこめて言ってくださった。
あと数回来店すれば店員さんも慣れてくださるだろう。
僕達が社会に参加するということは、慣れてもらうということなのかもしれない。
逃げていったカラアゲを次回は食べるぞと思いながら店を出た。
(2019年6月7日)