視覚障害者の全国大会が札幌市で開催された。
千人を超す仲間が全国各地から集った。
セレモニーの最初に黙祷があった。
会場が一瞬で静まり返った。
この一年間に亡くなられた先輩や仲間の人生に思いを寄せた。
僕も数日前に仲間の訃報を受け取ったばかりだった。
京都で一緒に訓練を受けた仲間だった。
職人だった彼は目が少しずつ見えなくなっていく中でも必死に仕事を続けていた。
それでも病魔は容赦なく彼を襲った。
とうとう愛用していた道具を処分する日が訪れた。
彼は泣きながら道具を手放した。
そして代わりに白杖を握りしめた。
同じような思いをした僕達は訓練所で出会った。
歩く訓練、点字の訓練、日常生活の訓練、訓練は進んでいった。
それと比例するように僕達は少しずつ笑顔を取り戻していった。
1年という時間が経過し、春が終わる頃、一緒に訓練を卒業した。
それぞれの地元のそれぞれの日常に帰っていった。
ある時、彼から文化作品展の案内が届いた。
会場に足を運んだ僕は驚いた。
一般の作品に混ざって、彼の作品が堂々と展示されていた。
見えていた頃の記憶を頼りに職人の手が生み出したものだった。
僕はガイドさんに説明を読んでもらい、それから作品を触らせてもらった。
うれしくて大粒の涙がいくつも流れた。
自分のことでは泣くことはないのに不思議だった。
わずか一分程度の黙祷の時間にたくさんの思い出が脳裏を駆け巡った。
そして最後に彼が笑った。
また一年、僕は僕の仕事を頑張ろうと思った。
(2019年5月29日)