弱視の友人に手引きしてもらって歩いていた。
信号待ちのところで誰かが僕に近づいてきた。
僕に少し触れながら声を出された。
一生懸命に声を出された。
二人の女性だった。
聴覚障害の二人の言葉は聞きなおしても難しかった。
手話をしながらお二人が僕に何かを言っていると弱視の友人が教えてくれた。
言葉も手話も分からなかった。
僕は聴覚障害者団体が主催する盲ろう者通訳介助人の研修に毎年講師として参加して
いる。
そこでたくさんの聴覚障害の方と出会う。
手話通訳の方が間に立つことで僕の講演を聞いて頂けるのだ。
きっとそこで出会った人達に違いない。
僕は妙な確信を持って彼女達に手を差し出した。
「久しぶりやなぁ。ありがとう。」
彼女達はしっかりと僕の手を握り返してくださった。
僕達の間で笑顔が弾けた。
お一人がまた声を出された。
「ありがとう。」
はっきりとした言葉にはなってはいなかったが、間違いなくそうおっしゃった。
僕は、聞こえないことがどんなことか分からない。
その悲しみも苦しみもよく分からない。
ただ、見えない僕にも楽しい時間があるのだから、
聞こえない人にもきっと幸せがあると思っている。
そこを知っていくことが理解していくということのような気がする。
今日のお二人はとってもうれしそうだった。
幸せが伝わる再会だった。
(2019年5月23日)