「鰆の薄い切り身を道成寺粉に混ぜ、それを桜の葉で包んで蒸したものです。」
板前をしている甥っ子が説明してくれる。
料理の説明だけでなく、目前の桜島の風貌も教えてくれる。
彼は三重県で育ち、僕の妹の娘と出会った。
二人は結婚して僕とも親戚ということになった。
叔父さんが目が見えないということできっと少しの戸惑いはあっただろう。
いつの間にか一緒に話すことも一緒に歩くことも自然になっていった。
桜島が小さく噴火して空がほんのり灰色になった。
その様子を聞きながら次の料理にお箸を進めた。
フキノトウの天ぷらの苦みが口中に広がった。
季節の巡りを感じた。
彼の2歳の娘が成人する頃、僕は80歳ということになる。
生きていられるのかは分からない。
一緒に歩ける日があればそれはまた幸せということになるのだろう。
そんなことを思いながら閉めの桜蕎麦を味わった。
淡いピンク色でほんのりと桜の香りもした。
希望が似合う花なのだと思った。
(2019年4月4日)