彼女は白杖を使いながら単独で駅に向かっていた。
「お手伝いしましょうか?」
自転車に乗った男性が横にきて声をかけてくれた。
自転車をひきながらのサポートは難しいと判断して彼女は丁重に断った。
しばらく歩いたらまた声がした。
「先ほどの者です。自転車を置いてきました。駅までお手伝いしましょうか。」
彼は自転車を置いて引き返してきてくれたのだった。
彼女は駅まで彼のサポートを受けて歩いた。
近くにある高校の生徒だと分かった。
『短い間でしたが、血の繋がった孫と歩いたようなほのぼのとした幸せなひと時でし
た。今時こんな若者がいることに感激と嬉しさで胸が熱くなりました。』
彼女から届いたメールからは喜びが溢れていた。
ささやかな喜びは間違いなく確かな幸せだった。
幸せはメールから零れて僕の心にも染み渡った。
僕も自分がサポートを受けたような気分になっていた。
僕と彼女は視覚障害者協会の仲間だ。
見える人も見えない人も見えにくい人も、
皆が参加しやすい社会になるように日々一緒に活動している。
僕達は生まれも育ちも何もかもが違う。
同じなのは視覚障害でたまたま同じ地域で暮らしているということだ。
そして、同じ未来を見つめているということだ。
そういう仲間に出会えたことに感謝したい。
幸せをおすそ分けしてくれた彼女に心からありがとうを言いたい。
(2019年3月8日)