著書へのサインを求められたらすることにしている。
最初の頃は照れくささがあった。
凡人なのだから仕方がない。
いつの頃からか好んでするようになった。
感謝を表現できるひとつの方法だと思えるようになったからだろう。
今回も講演後のサイン会に準備された本はすべてなくなった。
医療関係者の学会だった。
有難いことだと感謝した。
そしてそのやりとりの際に会話が生まれたりすることも多い。
「いいお話でした。心に沁みました。」
「本、小学生の息子に読ませます。」
「またいつかどこかでもっと話が聞きたいです。」
「明日からの仕事、頑張ろうと思いました。」
「障害を持った人に声をかける勇気が出ました。ありがとうございました。」
「応援しています。頑張ってください。」
身に余る言葉が並んだ。
40歳代だという男性は彼が出会った病魔について話をしてくださった。
突然、身体がどんどん動かなくなっていったらしい。
告げられた病名を調べるためにスマートフォンを握っても、
その指さえが動かなくて愕然としたとのことだった。
絶望感の中でやっと呼吸をしておられたのが想像できた。
幸い、彼は効果的な治療と出会うことができた。
「治って本当に良かったですね。」
僕は自然に彼の手を強く握った。
いろいろな病気がある。
治るか治らないか、それは仕方のないことなのだろう。
どの時代なのか、どの国なのか、様々な環境が医療を変えていく。
いつか僕の病気も治る日がくるのかもしれない。
ただ、僕の人生に間に合うかは分からない。
例え治らない病気に出会っても人は生きていく。
そしてその命を人は応援していく。
生きていく価値を人は認め合う。
そこが人間の素晴らしさなのだと思う。
彼は僕の手を強く握り返した。
(2019年2月28日)