「発信のために書くのよ。」
17年前の冬だった。
京都駅の上にあるオープンスペースのカフェだった。
寒風にさらされながら彼女は静かにそして熱く話をされた。
躊躇している僕を説得された。
「活字の力」と何度もおっしゃった。
それは出版の世界で仕事をしてこられた経験からのものだった。
僕は半信半疑でそれでも書き始めた。
2年後、「風になってください」というささやかなエッセイが産声をあげた。
彼女との二人三脚の結果だった。
やがてその本は重版になり、僕の活動の原動力となっていった。
10刷りを迎えるなんて、僕自身を含めて誰も予想はしていなかった。
いや、彼女だけはひょっとしたら、そう思ってくださっていたのかもしれない。
とにかく、出会いが僕の人生を変えた。
偶然の出会いは必然だったのかもしれないとさえ思っている。
緩和病棟の彼女を見舞った帰り道、彼女の言葉を幾度も思い返した。
いつものごきげんようの言葉はなかった。
それに気づいた時は涙がこぼれそうになったが我慢した。
「使命があるのだから頑張るのよ。」
そう言いながら握手した手をとても強く握ってくださった。
僕が彼女からいただいた最後の言葉となった。
どんな使命なのだろう。
何のための使命なのだろう。
まだよく判らない。
でもとにかく頑張ってみる。
僕の人生の残っている時間、
僕なりに頑張ってみる。
それが僕ができる彼女への感謝の方法なのだと思う。
(2019年2月7日)