休日の四条烏丸の地下道はとても混雑していた。
阪急電車と地下鉄烏丸線の乗り換えもあるので日常的に混んでいる場所だが、
満員電車のような混みようは何かイベントでもあったのかもしれない。
僕は緊張感のレベルスイッチを最大限にして少しずつ歩いた。
いつもは白杖で点字ブロックの横を触りながらフラットの床を歩いている。
点字ブロックの上はガタガタして歩きやすくはないからだ。
でもとても混んでいる時はわざと点字ブロックの上を歩く。
人にぶつかるリスクを少しでも少なくするのも技術のひとつだ。
それでも数か所の難所がある。
人の流れがいくつかの方向に分かれる場所、
点字ブロックが人の流れから外れてしまう場所、
大きな音がしている場所などがそうだ。
そして、人波の中の人は意外と前を見ていない。
そこを歩くのだから大変だ。
白杖の長さと角度を調整しながらスピードも周囲に合わせて変化させながら歩く。
今日もそうして歩いている途中だった。
地下鉄の改札を出て点字ブロックの上を歩いて、階段にたどり着いた時だった。
「松永さん。」
去年福祉授業に出かけた小学校の男の子三人組が僕に声をかけてくれた。
この混雑の中で僕を見つけてくれたことに驚いた。
少年達は行先は僕と反対方向だったが、
後戻りしての阪急烏丸駅の改札までのサポートを引き受けてくれた。
手引きの仕方も学校で勉強していたのでスムーズだった。
混雑した人込みの中を少年達はスイスイ歩いた。
目が見えていたら普通のことなのかもしれないが、
僕はその動きに感動してしまった。
改札口で少年達に感謝を伝えた。
それから改札口を入って、また白杖で歩き始めた。
「松永さん、お気をつけて。」
少年達の大きな声が背後から聞こえてきた。
しかもその声は周囲の雑踏をかき消してハーモニーとなっていた。
僕は振り返って笑いながら手を振った。
少年達も手を振った。
「助け合えるって人間だけだよね。」
学校で少年達に語り掛けた言葉が僕の頭の中で蘇った。
(2019年1月21日)