「趣味は何ですか?」
問われるたびに僕は口ごもっていた。
忙しさでごまかしているのは自覚していた。
そんな自分が少し情けなかった。
そんな生き方を寂しく感じていた。
僕の周囲の視覚障害の仲間達はいろいろな趣味を持っておられる。
読書、俳句、短歌、川柳、楽器の演奏、音楽鑑賞、カラオケ、散策、登山、旅行、
ジョギング、マラソン、視覚障害者用の卓球、タンデム自転車、水泳、社交ダンス、
食べ歩き、手芸・・・。
ちょっと思い出しただけでもどんどん出てくる。
そして活き活きと人生を楽しんでおられる。
趣味はそれぞれの人生を豊かにしてくれているのは間違いない。
うらやましさも悔しさもあった。
その僕が今年はやっと言えるようになった。
「趣味は映画鑑賞です!」
20年前、見えなくなった時に映画鑑賞はあきらめた。
数回映画館に足を運んだが途中でストーリーについていけなくなった。
やはり見えないと無理だと感じた。
その後ボランティアさん達の努力でバリアフリー映画が登場した。
いろいろな映画に副音声を付けて上映会が催されるようになったのだ。
僕も何度も足を運んだ。
ただ、日時と場所が決まっているのでなかなか手軽に参加は難しかった。
今年、スマートフォンに映画館で副音声が聞けるアプリを入れた。
一般の映画館で僕の時間に合わせて映画鑑賞ができるのだ。
『万引き家族』
『焼肉ドラゴン」
『空飛ぶタイヤ』
『カメラを止めるな』
『コーヒーがさめないうちに』
『ビブリア古書堂の事件手帖』
『人魚の眠る家』
毎月のように映画館に足を運んでいる。
東京で会議の後、3時間くらいあったら映画と決めている。
一般の映画館で見える人達と一緒に新作の作品を鑑賞できる。
ひとつの未来の形があるのかもしれない。
今年中に『家族色』も是非見たいと思っている。
僕の故郷の阿久根市が舞台になっている映画だそうだ。
ほんの少しだけど、確かに人生が豊かになった。
(2018年12月6日)