「彼岸花が道端の斜面に寄り添って咲いていました。」
短いメッセージと一緒に届いたのは新米だった。
彼女の家の田んぼで穫れたものだった。
大学時代の同級生だった彼女は偶然、インターネットで僕の失明を知った。
卒業して30年以上経ってからだ。
30年の間には賀状のやりとりさえなかった。
おぼろげな記憶の中の同級生だった。
僕達は30年という時間を越えて再会した。
それからこうして時々思い出してはエールを送ってくれる。
特別な関係でもなかったし宝物のような思い出があるわけでもない。
人生の中でほんの一瞬の交差だったに違いない。
それでも人は心をつなぐ。
やさしさと思いやりが織りなしていくのが愛なのだろう。
それぞれの人生への愛だ。
20歳の頃の彼女が記憶の中で控え目に微笑む。
長閑な初秋の風景によく似合う。
僕は彼女に感謝し僕自身の人生に感謝する。
今年も秋が訪れた。
(2018年9月22日)