講演を終えて校門を出る時、彼女は小さな紙袋を僕に手渡した。
地元の和菓子だった。
帰宅してから僕はゆっくりと味わった。
甘さが抑えられた和菓子が緑茶によく似合った。
ほんのりと栗の味を主張していた。
彼女が秋を手土産にしてくれたのを感じた。
若い頃はあまり和菓子を食べようとは思わなかった。
最近、時々少しだけ食べたいと思うようになった。
年齢を重ねて味覚が変化したのだろう。
舌先は確かに成長したように感じる。
味だけではなくて、素材の触感、深み、季節感まで感じられるようになった。
見えなくても味わうことはできる。
幸せのひとつだ。
心を広げて秋の味覚を堪能したい。
(2018年9月17日)