好きこそもののとは言うけれど、
彼女の料理の腕前はすごい。
彼女と出会ってからもう10年以上になる。
その時間の流れの中で彼女の病気は徐々に進行していった。
視力はほとんどなくなってしまった。
もう文字を読むこともできなくなったし、一人で移動する距離も短くなった。
年を重ねる中での失明はきっといろいろ大変なはずだ。
それでも彼女は料理だけはやめようとはしない。
彼女の得意料理のひとつ、どて煮を食べたくなった。
図々しい僕は彼女にそれをお願いした。
届けられたどて煮はやっぱり美味だった。
どんなお店のどて煮よりも美味だった。
僕はうれしくなった。
見えなくなって失っていくもの、見えなくなっても失いたくないもの、
きっとあるのだろう。
やっぱり美味だったと彼女に報告した。
そう言ってもらえる瞬間が幸せなのだと彼女は笑った。
その言葉で僕はまたうれしくなった。
(2018年8月26日)