「おいしそうに召し上がりますね。」
黙々と食べる僕を見てガイドさんはうれしそうに笑った。
和食屋さんで僕が頼んだのはあら煮定食だった。
見えないと魚の骨が危ないのではないかと尋ねる人がいるが僕は大丈夫だ。
海の近くで生まれた僕は子供の頃から魚を食べて育った。
お刺身も煮物もフライも食べていた。
お味噌汁のだしはイリコだったし具は浜でとれたワカメだったりした。
父ちゃんが釣ってきた魚も当たり前のように食卓に並んだ。
唇の感覚で骨を選別することをいつの間にか覚えていったのだろう。
だから見えなくても何の問題もない。
骨についている身までしゃぶる感じで食べてしまうから、
見える人よりもきれいに食べると言われることも多い。
きっと魚好きなのだろう。
祖父ちゃんはその最後の骨に熱いお茶をかけておいしそうに飲んでいたと聞いたが、
僕はまだそこまではやらない。
もうちょっと年をとったら挑戦しようかとは思っている。
あら煮を綺麗に骨だけ残してそれに熱いお茶をかけておいしそうに飲む全盲の老人。
ちょっとかっこいいと憧れている。
まだもうちょっと修行してからだな。
そんなことを考えていたら彼女に指摘された。
「考え事しながら食べておられますね。」
美味しいものは時間まで美味しくしてしまうから不思議だ。
食いしん坊ってことかな。
(2018年8月16日)