花火大会に出かける人達で電車は満員だった。
浴衣姿のカップル、笑い転げる子供、うちわで涼をとるおばあちゃん。
それぞれの夏が微笑んでいた。
少年時代の故郷の花火大会を思い出した。
父ちゃんに手を引かれて波止場まで見にいった。
母ちゃんは妹を抱っこしていた。
持参した茣蓙に座って夜空を眺めた。
海を渡る潮風が気持ちよかった。
当時の田舎の花火は打ち上げる数も規模も現代よりはとても貧弱だった。
もう終わったのかとざわめくタイミングで次が打ちあがるという感じだった。
それでも花火の美しさは脳裏に焼き付いた。
いつか花火が見れなくなるかもしれないということを、
あの時は誰も予想できなかった。
僕自身もできなかった。
それなのにそれを知っていたかのように記憶は鮮やかだ。
花火を見上げる四つの笑顔がやさしく輪になっている。
夜空には大輪の花火が開いている。
花火の音を聞きに出かけたくなった。
(2018年8月5日)