大雨警報が出ていたが大学は平常通りだった。
僕は土砂降りの雨の中を出かけた。
右手に白杖、左手に傘、雨音で聞こえにくい音。
やっとの思いで桂駅のコンコースにたどり着いた。
濡れた傘をたたもうと手探りで付属のひもを探したがなかなか見つけられなかった。
いつもはあちこち触っているうちに手に触れて分かるのだが、うまくいかなかった。
時間も気になってあせっていた。
いつの間にか手はびしょ濡れになっていた。
斜め後ろから近づいてくる二人連れの女性のちょっと大き目の声に気づいた。
いわゆる面倒見のいい関西のおばちゃん風だった。
「すみません。」
僕は傘のひもを探してもらいたくて声をかけた。
二人の女性は会話を止めて、それから間もなく急ぎ足で立ち去った。
想定外の動きだった。
僕は内心驚きながら別の通行人の足音に声をかけた。
どの足音も止まらなかった。
年に数回訪れる運の悪い日なのだろうか、
結局10人くらいには声をかけたがすべてだめだった。
僕は何か顔についているのだろうかとか、服が変になっているのだろうかとちょっと
心配にもなった。
誰も手伝ってくれる人はいない。
どうしようもないのでたたみかけた傘を再度開いてひもを探した。
見えてさえいれば何でもないことだ。
悔しかった。
そのひもを持ったまま傘を閉じてやっと片付けることができた。
心がびしょ濡れになっていた。
大学の最寄りの駅に着いた。
学生が迎えに来てくれた。
帰りも別の学生が送ってくれた。
僕は彼女達と相合傘で歩いた。
びしょ濡れの僕の心を見透かしたように彼女達はやさしかった。
僕が濡れないように水たまりに足を入れないように気を遣って歩いていた。
そしてずっと笑顔だった。
相合傘が愛々傘になっていた。
いいもんだなと思った。
(2018年7月6日)