久しぶりに宇治を訪れた。
いくつもの思い出が転がっていることに気づいた。
やさしい思い出に包まれながら宇治橋を渡った。
宇治橋商店街にある川魚屋さんでウナギのかば焼きを買った。
初めてここのウナギを食べたのはもう10年以上前のことだ。
講演の帰りに関係者から頂いたお土産が茶団子とここのウナギだった。
実家に立ち寄って父ちゃんと一緒に食べた。
「うまいなぁ。」
父ちゃんがしみじみとつぶやいた。
喜怒哀楽をあまり出さない父ちゃんが本当にうれしそうだった。
僕は中座してこっそりと涙を拭った。
うれし涙だったと思う。
失明してしまったことに対しての申し訳なさみたいな気持ちが僕のどこかにあった。
理屈では説明しきれない感情だったと思う。
僕はそれから幾度もその川魚屋さんでウナギを買い求めた。
僕にもできる親孝行の真似事だったのだろう。
父ちゃんの好物はいつの間にか僕の大好物になった。
父ちゃんがこの世を去ってからは足が遠のいた。
遠いし自分のものとしては値段の高さもあった。
今回は父ちゃんにお供えするという理由付けでお土産にした。
ウナギを食べながら父ちゃんの顔が浮かんだ。
笑ってくれている顔だった。
(2018年5月21日)