高校での授業がスタートした。
初めて出会った高校生達に僕が高校生だった頃の思い出を語った。
思い出はキラキラと輝いていた。
そして少しの切なさも秘めていた。
自分の世界がどんどん広がっていった時期だった。
ただ、障害を持った人達について学ぶ機会はなかった。
だから大人になっても障害を持った人とのコミュニケーションは難しかった。
初日のたった2時間の授業で高校生達は見えない僕と笑顔をかわせるようになった。
若い頃の経験はそのまま血肉となるのだろう。
僕と出会ったことで人生はほんの少し豊かになるに違いない。
「ありがとうございました。」
「失礼します。」
授業が終わるとそれぞれが言葉を声に出しながら教室を出ていった。
「また今度ね。」
僕も1人ひとりに声を出して答えた。
学校を出てバス停に向かった。
バス停に着いたら周囲は皆外国人だった。
僕はいろんな国の言葉が飛び交う中で自分の乗るバスを探さなければならなかった。
ドアが開いた瞬間に流れる行先案内の放送を確認しなければならないのだ。
たった一回の放送は耳を澄ませても雑踏では聞き分けにくい。
緊張感を持って立っていた。
一台目のバスが停車した音が聞こえたが確認はできなかった。
僕はきっと不安そうな顔でキョロキョロしたのだろう。
隣で男性の声がした。
僕は英語は判らないのだけど最後の「セブン」は聞き取れた。
ひょっとして、まさか、そう思って立っていた。
次のバスが到着するエンジン音が聞こえた。
「サーティナイン」
彼はその言葉を2度繰り返した。
バスの39号という案内も聞こえた。
やっぱり彼は僕に番号を教えてくれていたのだ。
僕は彼に向かい合って、
「ナンバー スリー」と伝えた。
「ナンバー スリー OK!」
彼は笑った。
数台のバスが行った後3号のバスが到着した。
彼が今度は僕にそっと触れながら教えてくれた。
「サンキュウ ベルマッチ!」
僕はそう言いながらバスに乗り込んだ。
後ろから「バイバイ」という彼の声が聞こえた。
僕は彼に手を振ってそれから頭を下げた。
異国の地で日本語もできない彼の行動をカッコいいと思った。
あの高校生達がそんな大人になってくれるかもしれないとふと思った。
(2018年4月28日)