企業の新入社員の研修会にお招きを受けた。
3週間という研修の最後の日だった。
担当者から「人間力」というテーマを預かった。
とは言うものの、僕に特別なことができるわけでもない。
灰色の向こう側にいつものように話をした。
1人ひとりに心を込めて語りかけた。
「一分間だけ見えるとしたら何を見たいですか?」
講演の最後に1人の女性が質問をしてくれた。
質問の裏側には見せてあげたいというやさしさが隠れている。
そんな質問が出るということが僕にとっては成功だった。
見えなくなって間もない頃、講演先の小学校で出会った少女を思い出した。
12歳だった少女は同じ質問を僕に投げかけた。
あの少女はどんな人生を歩み、どこでどんな風に生きているのだろうか。
幸せに暮らしているだろうか。
どんな幸せを見つけただろうか。
不思議な気持ちになった。
失明してから20年あまりの歳月が流れた。
こうして元気にここまでこれたのは僕は間違いなく幸せということだ。
149個の門出、それぞれの人生がそれぞれの幸せにつながるように祈った。
僕もまた新しい年度を迎える。
幸せに向かって歩んでいこう。
(2018年3月31日)