僕はノーネクタイのマオカラースーツを愛用している。
一応スーツなのでいろいろな会議や講演でもそんなに失礼にはならないだろうと勝手
に思っている。
似合うかどうかは別問題だが形状も気にいっている。
その僕が年に数えきれるくらいのネクタイ姿になるのが冠婚葬祭といくつかのセレモ
ニーの時だ。
厳粛な空気の中ではなんとなくネクタイが気持ちを引き締めてくれるからだろう。
卒業生は名前を呼ばれるとしっかりと大きな声で返事をして壇上に上がった。
拍手の中で卒業証書を受け取ると、
一歩一歩足音を刻みながら自分の席に帰っていった。
僕は学生の顔なんて見たことはないはずなのに、
たくましく凛々しくなった姿をカッコいいと感じた。
1人ひとりを目で追いながら拍手をした。
講師という仕事柄たくさんの学生達と出会いがある。
画像がない僕が全員を記憶するなんてできない。
でもそれはどうでもいいことなのだといつの頃からか判ってきた。
限られた時間の中で思いをこめて伝える。
そんなにいい講師ではないがそれくらいがいいと開き直っている。
出会いがいろいろと教えてくれるのはお互いさまだ。
大切なことを学生達に教えられることも多い。
うれしくなる。
帰り際に二人で記念撮影をした女子学生は自然と僕の手を誘導して触らせてくれた。
「先生、ほら、着物を着たのですよ。」
絵柄には桜があった。
今年初めての桜を美しいと思った。
(2018年3月14日)