バスを降りて点字ブロック沿いに歩き始めた。
頭の中に地図がある場所は一応なんとかなる。
でもあくまでも一応だ。
ついこの前はこの場所で迷子になった。
バスを降りていつもと同じ方角に歩き始めた筈だった。
それなのにいつもと同じくらい歩いても最初の目印の分岐の丸い形状の点字ブロック
が現れなかった。
僕は不安になって立ち止まった。
頭の中にはハテナマークがいくつも並んだ。
しばらく他のいろいろな音などを聞いてやっと判った。
バスが停車した場所はいつもと違っていたのだ。
道が混んでいたのか迷惑駐車などで停車位置が変更になたのかは判らない。
とにかく僕のスタートした地点は頭の中の地図とは違っていたのだ。
起点が違うのだから迷って当たり前だ。
迷ったせいで予定の電車には乗り遅れた。
前回の苦い思い出があったので今回はいつも以上に慎重に歩き始めた。
「お手伝いしましょうか?」
ささやかな声がした。
ちょっと不安そうな声だった。
僕は喜んで改札までのサポートをお願いした。
「たまにしか使わない駅なので時々迷子になったりするんです。助かります。」
僕は笑いながら感謝を伝えた。
少し道を歩きエスカレーターに乗った。
「見える人にはちょっとの距離でしょうが本当に助かるんですよ。」
僕は前回を思い出しながら再度彼女に感謝を伝えた。
「そう言ってもらえるとうれしいです。」
彼女はやっぱりささやかな声だった。
内気な性格の人なのだろう。
でもそのささやかな声は確かに微笑んでいた。
(2018年2月21日)