その食堂はライトハウスの近くにある。
冬がきたら毎年一回はその店のカキフライ定食を食べることにしている。
僕の年中行事のひとつだ。
味もいいがとにかくボリュームが凄いのだ。
最初知らずに頼んだ時、お腹が空いていたのに残してしまった。
それからは毎年気合を入れてお店に向かった。
でもさすがに食べられる量にも限界を感じるようになってきて、
数年前からは定食をSサイズにしてご飯も小にしている。
もちろんそれでも満足している。
お店はだいたいの場所は判っているつもりなのだけれど、
一か月に一回行くか行かないかくらいなので自信はない。
手前で止まってしまうか通り過ぎてしまうかが多い。
二週間ほど前にもチャレンジしたが失敗した。
行ったり来たりしているうちにさっぱり判らなくなってしまった。
仕方なく通行人の足音を探したがなかなか出会えなかった。
10分以上立ち尽くしていた。
やっと止まってくれた男性がお店の前までサポートしてくださって、
臨時休業の案内を読んでくださった。
溜め息が出る程がっかりした。
運が悪い日だった。
学習した僕は今度はあらかじめ電話で開いているかを確認して出かけた。
おいしいものを食べる時にだけ丁寧に努力する性格は自分でも恥しいくらいだ。
そろそろお店かなと思って歩き、いつものように通り過ぎたかなと引き返した。
そしてまた通行人に教えてもらおうと思って止まった瞬間声がした。
「どこか探しておられますか?」
僕は食堂の店名を告げた。
「ここですよ。」
僕がこの辺かなと思って止まった場所はばっちりだったのだ。
僕の迷子状態に気づいた彼女は躊躇なく声をかけてくださったのだろう。
僕はグッドッタイミングの彼女に御礼を言って店に入った。
今年もSサイズのカキフライ定食をおいしく完食した。
例年よりもおいしく感じた。
お店に入る瞬間にやさしい人に会って心が喜んでいた。
その状態で好物のアツアツのカキフライを食べたのだからおいしさは倍増したに違い
ない。
見えなくて歩くというのは危険もある。
怖い時もある。
でも、とっても幸せになる時があるのも真実だ。
相手が見えるか見えないかなんて関係ない。
見えても見えなくてもやさしさは伝わってくる。
やさしさに出会う確率は見えない方が高いかもしれない。
(2018年1月18日)