手袋をしていると白杖で感じる触覚は少し弱くなる。
だから少々の寒さでは手袋はしない。
寒がりだけど我慢する。
例えしても人込みとか慣れない場所でははずす。
それだけ触覚が重要だということだろう。
今朝はあまりの冷たさを感じてバス停まですることにした。
いつもより少しスピードを落として慎重に歩いた。
耳を澄ませて歩いた。
バス停は点字ブロックがあるのでそれが目印だ。
ただ途中の路面も結構デコボコなので判りにくい。
点字ブロックのでこぼこ感と素材のつるつる感、ざらざら感で判断しなければならな
いのだ。
まだかなと思いながら歩いていた。
「ここだよ。」
周囲には誰もいないと思っていたのに突然の声だった。
数歩後ずさりすると確かに点字ブロックがあった。
僕がちゃんと止まれるか見ていてくださったのだろう。
通り過ぎようとしたので声をかけてくださったのだろう。
「ありがとうございます。」
僕は照れ笑いを浮かべながら御礼を伝えた。
「今年ももうあとわずかだね。
お兄ちゃんもよく頑張ったね。」
彼は時々僕を見かけているらしい。
年齢は90歳を超えていて一人暮らしらしかった。
「今年もまだお迎えがこなかったから、もう少しは生きているんだろうね。
お兄ちゃんはまだまだやなぁ。」
彼は独り言のようにつぶやいた。
お兄ちゃんと呼ばれたのが判るような気がした。
そして褒めてもらえたことをなんとなくうれしく思った。
6歳の時、父ちゃんから頭を撫でてもらいながら褒められたことを思い出した。
一瞬、幸せに包まれた。
バスが来た。
おじいさんはまるで父ちゃんが僕にしてくれていたように誘導してくれた。
不思議な感じがしたが違和感はなかった。
いい一年だったのかもしれないと思った。
(2017年12月30日)