バス停で彼は待っていてくれた。
久しぶりの再会だった。
再会を喜ぼうとする僕を静止して彼はすぐに手引きで歩き出した。
狭い歩道で他の通行人の妨げになったらしい。
彼はいつも通りに見えない僕の安全を優先させていた。
それから広い道に出てすぐに教えてくれた。
「とってもきれいな青空ですよ。」
僕達は師走の微風に吹かれながらゆっくりと歩いた。
それから近くのレストランに入った。
とりとめもない話をしながらお互いの近況を確認した。
僕は目が見える人と時間がある時にはできるだけ歩こうと思っている。
健康のためだ。
彼に買い物の手伝いと地下鉄で一駅の歩行をお願いした。
彼は引き受けてくれた。
レストランを出て歩きながら彼はまたつぶやいた。
「とってもきれいな青空です。雲一つありません。」
僕は空を眺めながら歩いた。
一歩一歩足を前に出しながらのんびりと歩いた。
歩いていることを幸せだと思ってしまった。
地下鉄で移動して買い物をすませそれからまた歩いた。
途中コーヒー豆を焙煎する香りに誘われてカフェに入った。
コーヒーを飲みながらふと気づいた。
専門学校で彼と出会ってもう10年になる。
僕は彼の顔を見たことがないのになんとなく思い出している。
不思議な感じがした。
カフェを出てバス停に向かいながら彼はまた言った。
「本当にきれいな青空です。見ないで歩いている人はもったいないですね。」
急ぎ足で行き交う人達に向けられた感想だった。
その言葉が空の美しさを証明しているようだった。
バス停に着いてしばらくしてバスが来た。
僕は彼に御礼を伝えてバスに乗車した。
もうすっかり慣れている彼は僕の背中越しに声で空いてる席に誘導してくれた。
椅子に座ってから僕は手でバイバイをした。
笑顔の彼の顔を見ながらバイバイをした。
バスが動き出して僕はポケットラジオのイヤホンを耳にさした。
音楽を聴きながらふと窓越しの空を眺めた。
今日4回目の雲一つない真っ青な空があった。
しばらく眺めていた。
けちん坊の僕はもったいないことをしなくて良かったと思った。
そしてまた彼と歩きたいと思った。
(2017年12月20日)