祇園花見小路の石畳を南へ歩いて、
幾筋目かを東へ入ったところにその店はあった。
ミシュランで評価を得たというその店はさりげなく佇んでいた。
通された6畳ほどの部屋の床の間には真っ赤な薔薇が一輪生けてあった。
運ばれた料理はそれぞれが絵画のようで味も控えめでありながら存在感があった。
感じる雰囲気には見事に無駄がなく洗練されていた。
彼女達が僕の還暦祝いで選んだお店はまさしく食いしん坊の僕には最高だった。
準備されていたプレゼントも僕が欲しかったものや僕の好きなものばかりだった。
これほどまでに完成されたお祝いを受けたのは初めてかもしれない。
僕のことが研究されていた。
あちこちに愛が散りばめられていた。
素直にうれしいと思った。
幸せを感じた。
それぞれの人生がある時ある場所で偶然僕と交差した。
1億人以上の人間がいるこの国で出会い、その交差が縁でつながるということは奇蹟
なのだろう。
奇蹟は幸せにつながっていく。
奇蹟に感謝したい。
奇蹟を大切に生きていきたい。
静かにそう思った。
(2017年12月3日)