「何という木やろ。真っ赤やなぁ。」
バス停で立ち話しておられたご婦人がつぶやかれた。
「この雨でイチョウも散るなぁ。ほら、道が真っ黄色や。」
バスの乗客の男性同士が会話しておられた。
バスだけではなく電車の中でもそうだった。
あちこちで秋模様を語っておられるのが聞こえてきた。
その度に僕も前を見つめた。
最高潮に達したらしい秋が雨の中に佇んでいた。
ほとんど陽光のない景色は不思議と存在感を引き立たせていたのかもしれない。
墨絵のような色使いの中にそれぞれの色の美しさがあった。
僕は幾度もそれを見つめた。
雨の音の中でそれを見つめた。
赤という色を思い出した。
黄色という色を思い出した。
まだ憶えていることに安堵した。
静かに時が流れていくのを感じた。
秋は気恥ずかしそうに、でも確かに僕にもささやいてくれた。
(2017年11月19日)