視覚障害の先輩から電話があった。
僕が敬愛する先輩の一人だ。
人生の途中で失明という経験をされた。
丹後半島にある過疎の町で暮らしておられる。
そんな地域で白杖を持って生きるということ、
都会よりはるかに困難なのは推察できる。
舗装されていない道も多いだろうし点字ブロックの敷設もまだまだだろう。
音響信号もあるのだろうか。
何より障害への社会の理解は遅れている筈だ。
でも先輩はそんなことはおっしゃらない。
愚痴をこぼしたりされない。
近所を散歩するとか川柳を楽しんでいるとかの話題が多い。
そこにはいつもささやかな幸せが垣間見える。
変化にたじろぐことなく生きていく人間の崇高ささえ感じられる。
決して派手ではない静かな空気だ。
僕は先輩と出会った時必ず握手をする。
きっと僕もそんな人生を歩みたいとどこかで思っているのかもしれない。
「松永さん、最近山科の小学校に行かれましたね。
孫から電話があったんですよ。」
それから先輩は可愛くてならない10歳の少年の話をされた。
やさしい子と幾度も言われた。
お正月などに出会えるのを楽しみにされているようだった。
好々爺の語りだった。
僕は微笑みながら電話を聞いていた。
やさしい気持ちになった。
(2017年11月14日)