ラジオから流れてきた青葉城恋歌を聞いて、
次の日には1人で東京へ向かう夜行列車に乗っていた。
20歳の頃だっただろうか。
早朝東京に着いて上野から仙台に向かったのだと思う。
Tシャツに汚れたGパン、下駄履きだった。
大学の講義をさぼれば時間だけはたっぷりあった。
お金はなかった。
どこに行くにも鈍行列車だった。
車窓から流れる景色を飽きもせず見ていた。
夜行列車の中では文庫本の活字をむさぼるように追った。
硬いシートに身体を折り曲げて眠った。
眠る時にはウォークマンから流れる大好きな音楽も傍にあった。
それなりに立派な大人になりたいと思っていた。
豊かな人生を送りたいと思っていた。
いつか幸せになりたいと夢見ていた。
確かにそこに向かって頑張ってきたのだと思う。
間違っていたとも思わない。
でもあの仙台駅のホームに降り立った時の思いは味わえなくなった。
あの胸が震えるような思いが幸せの姿だとあの頃は判らなかった。
あれから何度目の仙台だろう。
それぞれの時代のそれぞれの仙台が微笑んでいる。
いつか微笑み返せるようになりたい。
僕は僕以上にも僕以下にもなれないのだろう。
僕はこのまま僕の人生を僕の歩調で歩いていくんだ。
(2017年9月1日)