昨年僕の講義を受講していた学生と再会した。
一年ぶりの再会だったが記憶はおぼろげだった。
珍しい名前だったので名前の記憶はあったが、
それがどの学生でどんな感じだったかなどの記憶はなかった。
学生達は年に30回の講義をほとんど休まずに受けてくれているのだが、
数も多いし、やっぱり画像がないというのが決定的なのだろう。
僕はとにかく記憶ができない。
それにその記憶がなくても特別に困ることはないということもあるのかもしれない。
再会は三日間の研修だった。
しかも研修の最終日は僕を含めて7人でのグループ実習だった。
たくさんの個別の会話ができた。
彼女がしっかりと話をするということに気づいたし、
言語聴覚士を目指していることも知った。
楽しい半日だった。
別れ際に彼女は僕の顔を見つめた。
「いつか自分の子供に『風になってください』を読ませたいと思っています。」
彼女はそれだけを言って握手した。
「ありがとう。」
僕はやっとそれだけを返した。
どれくらい先の話だろう。
ひょっとしたらもう僕はいないかもしれない。
でも、本を読んでくれる人がいるかもしれないのだ。
僕は不思議な幸せに包まれた気がした。
(2017年8月24日)