休日のひととき、友人と和食屋さんで食事をした。
見えなくても食べるということは楽しめる。
食通の視覚障害者も結構いる。
僕は食通ではないが食いしん坊には違いない。
おいしいと聞いたお店にはつい行きたくなる。
香りに工夫がしてあったり季節の食材が使われていたりするとうれしくなる。
色彩は友人の説明で想像したりする。
食べ終わった食器を自然に元の位置に戻す。
「ほんまは見えてるんでしょう。」
そのタイミングで見えている人から指摘されることも多い。
それくらい自然な動きなのだろう。
20年の時間の流れの中で培ってきた技術なのかもしれない。
手のひらどころか指一本一本の触覚をすべて使っているのだと思う。
そしていつの間にか距離感みたいなものも判るようになったのかもしれない。
失明する直前、とにかくよくコップの水や食器をひっくり返したりした。
そしてその都度悲しくなった。
触覚などは使わずに目で見ていたからだろう。
ほとんど見えていない眼だったのにやっぱりその目で見てしまっていたのだ。
本能だったのかもしれない。
目を使えなくなってから自然に触覚などを使うようになっていった。
こぼしたりひっくり返したりすることはほとんどなくなった。
人間の対応力というのは凄いものだ。
でも例えば食後のケーキなどは手で食べることにしている。
フォークやナイフでというのは難し過ぎる。
幾度かトライしたことはあるがいつもグチャグチャになった。
そして開き直った。
見えない僕が上手に一番おいしく食べる方法を選ぶ。
それが手で食べるということなのだ。
行儀が悪いとかみっともないという意見もあるかもしれないが、
料理やケーキの立場になれば、
一番美味しくが本望だろう。
食いしん坊の僕流のこじつけでそうしている。
もちろん食後に口の周りのクリームをしっかりと拭くのは忘れないようにしています。
これを忘れたらあまりにもみっともないですからね。
(2017年8月16日)