彼と初めて出会ったのは昨年の秋だった。
出会ったと言っても直接の接点があったわけではない。
彼がたまたま参加した研修で僕の講演を聞いてくれたのだ。
多くの参加者だったから直接の会話もなかったし名刺交換もしなかった。
ただそれだけだった。
講演を聞いた後、生徒達に話を聞かせたいと彼は思ってくれたらしい。
彼の職業は高校の教師だったのだ。
そして実現した。
千人を超す若者達が僕の話を聞いてくれた。
僕はいつものように心をこめて語りかけた。
画像のない向こう側に語りかけた。
未来に向かって語りかけた。
数日後に彼から届いたメールには
「風になります」と書かれてあった。
退場する時の若者達の大きな拍手が蘇った。
あの中から僕達をサポートしてくれる人がきっと出るだろう。
見えない目から涙がこぼれた。
僕と彼との間には血縁はない。
共に過ごした時間もない。
ただ偶然人生がほんの一瞬交差しただけだった。
ただそれだけで人間は動けるのだ。
自分自身の利益にならないことで人間は動けるのだ。
人間と言う生き物の凄さに胸が震えるような思いになった。
(2017年7月9日)