僕は同窓生の車でとっておきの場所に向かった。
記憶の地図がナビゲーションだった。
車は国道3号線から細い道に入った。
山間の路地を進み小さな集落を越えたところで車は停まった。
昨年のドライブでたまたま見つけた場所だ。
僕達の秘密基地だ。
ドアを開けた瞬間に磯の香がした。
しっかりとした香りだった。
彼女達のエスコートで岩場を少し進んだ。
波の音だけがそこにはあった。
他の音は何もなかった。
僕はそんな筈はないと耳を澄ませたがやっぱり他の音は存在しなかった。
こんな空間が阿久根にはまだあるのだ。
岩場にあたる波がいろいろな音を生み出していた。
無音の中での海のささやきはそれだけで僕のDNAを幸せに導いた。
風も陽光もやさしかった。
帰ろうと振り返ったら彼女達の微笑みがあった。
素敵な笑顔だった。
夏が始まった。
(2017年7月2日)