白杖で点字ブロックを確認して足が止まった。
横断歩道だ。
足の裏で細長い形状の点字ブロックの向かう方向を調べる。
その方向にまっすぐ歩けば道の反対側の点字ブロックにたどり着くということになる。
つまり横断歩道を垂直に最短距離で渡るということになるのだ。
こっちからあっちにまっすぐ渡るなんて、
目が見えていればなんでもないことだ。
それを見えない僕達が勘でまっすぐというのはなかなか難しい。
しかも信号の青を車のエンジン音で判断しなければならない。
通行量の多い時は判断しやすいのだが、
中途半端な場合は色の変わったタイミングがつかみにくい。
通行量が極めて少ない場合は信号無視を覚悟で渡るしかない。
雨で傘をさしたりしたら音も聞きにくい。
天候にも影響を受ける。
たったひとつの横断歩道を渡るのも労力が必要だ。
僕が毎朝のように渡る横断歩道でもいつも緊張感が必要になる。
気合を入れて立っていたら突然声がした。
「青になりました。」
堂々とした大きなボリュームの声だった。
一瞬だったので自信はないが、声からすれば少年のようだった。
声はそれだけだった。
とにかく僕は横断歩道を渡り始めた。
「ありがとうございました。助かりました。」
僕も大きな声でお礼を言った。
大きな声でのやりとりがとてもうれしくなった。
見事に反対側の点字ブロックまでたどり着いた。
たった数メートルの横断歩道、そこには危険が潜んでいる。
でも人間のぬくもりはそれを越えて幸せまで運ぶこともある。
見えなくなった僕に神様はその幸せを時々プレゼントしてくださる。
(2017年6月26日)