療養中の先輩のお宅を訪ねた。
歓迎してくださった。
食事からコーヒーまで心の籠ったおもてなしだった。
のんびりと過ごした。
長時間は迷惑になるかもしれないと危惧していたが、
気がついたら結局滞在時間は4時間を超えてしまっていた。
病気を知ってから毎日のように先輩を思い出す日常があった。
無意識に思い出してしまうことで先輩の存在の意味を再認識していた。
一緒に歓談できるということがそれだけで僕にはうれしいことだった。
コーヒータイムにシルクロードの音楽が流れた。
喜多郎の音楽だった。
若い頃ビデオで何回も見た映像が蘇った。
ナレーションの石坂浩二さんの声までがついこの前のもののように蘇った。
見えなくなって20年は過ぎたのだからそれ以上前の記憶だ。
新鮮さは不思議な感覚だった。
ふと、僕は先輩の顔を見たことがないことに気づいた。
それなのにそこに先輩の笑顔があった。
確かな笑顔だった。
見たことがあるとかないとか、そんなに重要ではないのだろう。
好きなものはいつの間にか時間を越えて記憶に留まっていくのかもしれない。
そしてそれは間違いなく人生の豊かさにつながっていくのだ。
先輩が一日も早く回復してくださるように心から願った。
(2017年5月4日)