故郷の友人と電話で話をしていた。
「桜はどう?」
挨拶代りのフレーズだった。
それから、子供の頃見ていた花の話題になった。
ところが桜の思い出は出てこない。
桜がなかったのだろうか、
少年時代に見ていた記憶がないのだ。
桜を愛でる習慣がなかったのかもしれない。
ふと彼女はレンゲの花の思い出を口にした。
その瞬間、僕の脳裏にレンゲのお花畑の画像が映し出された。
一気にテンションが高くなった。
それから一輪のレンゲの花の映像も蘇った。
確かに僕が過ごした時代がそこにあった。
故郷の匂いがした。
寝っ転がって見上げた空はとても澄んでいたような気がする。
電話の向こうで彼女が笑った。
僕も笑った。
電話を切って深呼吸をした。
レンゲの首飾りを作ってくれたのは誰だったのだろうか。
思い出そうとしても思い出せなかった。
失った記憶に意味があるのかもしれない。
それでいいような気がした。
(2017年4月11日)