ベランダに出て洗濯物を干していたら、
団地の向こう側から聞こえてきた。
間違いなくメジロの鳴き声だ。
距離は判らないがきっと里山のふもとからだろう。
僕は手すりに寄りかかって聞き入った。
少年時代を思い出した。
はこべなどの野草を摘んですり鉢で丁寧につぶした。
薄茶色のすり鉢の中で緑色が美しかった。
それからぬかと混ぜてエサを作った。
そのエサを小さな白い陶器のエサ入れに入れて竹製の鳥かごに置いた。
うれしそうに飛び跳ねながら泣いてくれるメジロをずっと見ていた。
飽きもせず見ていた。
ウグイス色の羽根が綺麗だった。
少しずつ泣き方が上手になっていくのがうれしかった。
口笛で真似したりしていた。
季節は春だったのだろうか。
鳴き声に気づいただけなのに、
ほこりをかぶっていた記憶が見事に蘇っていた。
色彩までが鮮やかなのに驚いた。
幸せを感じた。
ふと空を見上げた。
いつもと同じだった。
映像はなかった。
もう見るということはないのだろう。
でもこれからも美しいものに出会いたい。
耳で聞いててで触れて感じながら生きていきたい。
(2017年4月7日)